取材日:2022年5月2日
トッドさんとの待ち合わせ場所は、公道から一本入った、車がすれ違うことのできない道の民家前でした。そこから更に歩いて1kmほど、熊野古道のような道をぐんぐん進んでいきます。
途中で吊橋が現れて、高所恐怖症の私は渡ることを躊躇ったのですが、いざ渡ってみると不思議と安定感があり、不安なく渡り切ることができました。
この吊橋の材料になった木は、20年ほど前に台風で倒れたヒノキの木。それを橋として活用できるようにトッドさんが一人でチェーンソーを使って切ったのだそう。「あの時は若かった、体力があった(笑)」と、トッドさんは振り返って笑います。知人たちの協力を得ながら、2日間かけて出来上がったそうです。
この先に本当に家があるのか?と疑問に思っていると、急に開けた土地が目の前に現れます。トッドさんは「ここからが僕の土地!」と広い敷地を指さします。想像した以上の大きな敷地に、ただただ驚いてしまい言葉が出てきませんでした(笑)。
木漏れ日が入る元々桑畑だったスギやヒノキの木のある場所、トッドさんの背丈ほどある雑草を刈り上げた青々とした草の土地、夏の農作業の合間に暑さしのぎに入る青緑の透き通った川……。トッドさんは日本人も知らない難しい単語も活用しながら、流暢に、でもじっくりと広大な敷地を案内してくれます。そして、その場所が持つヒストリーを1時間ほどかけて、ひとつひとつ私たちに伝えてくれました。
トッドさんの豊富な情報量に驚かされながらも、ヒストリーを知ることで土地の魅力がどんどん引き出される、そんな感覚を覚えました。
木々のざわめきや鳥のさえずりしか聞こえない豊かな自然に心が満たされながら、トッドさんとカメラマンさん私の3人で青空の下、サンドイッチを食べながらインタビューがスタートしました。
ーー想像以上の広さにビックリしました。とってもステキな場所ですね!どうやってこの山に出会ったんですか?
トッド:近所の方に、この土地の持ち主から「土地を手放したいなぁ」と聞いて、良いところだから使う人を探していた。僕の前にも見に来た人はたくさんいたみたいだけど、道も橋もないし色々難しいところもあるね……ってみんな、断っていた。
僕が話を聞いたときに、ちょうど仕事をしていなくて、次に何をするか決めていなかったから、その方が「キャンプ場に最適だよ」と言ってくれたので、キャンプ場として考え始めた。
そこから半年くらい悩んだけど、やっぱりいいな、と思ったから、購入費用を聞いて、高いと言えば高いけど……買って失敗してもプライベートのキャンプ場にはできるかな?って……思い切って買っちゃった(笑)。
ーー広大な土地を購入するのは勇気がいったとは思いますが、費用面だけでなく、将来像など慎重に計画を練った上での決断だったんですね。以前から土地を探していたんですか?アメリカに住んでいる頃からアウトドアや自然が好きだった、とか。
トッド:探してなかったよ(笑)。初めは隣の土地が気になっていた。よく、この近くの川に泳ぎに来ていて、隣の土地が見えた時に「キレイな場所、あそこ何かなぁ?」と思って、近づいていったら電柵と家が見えたから入れなかったけど。「ここでキャンプがしたい!」と思った。ただ、隣の土地を買うのは交渉が難しそうと分かった。
だから、まずは今の土地を使いながら、いずれは隣の土地も「使っていいよ」と言われるように頑張ろうと思っている。
ーーまずは今の土地を活用し、実績を作って地域の人の信頼を得る。さすが、日本に長年住んで多くの経験をしたトッドさんだからこそ出来る段取りですね。
ーー川に遊びに来た時に気になった場所、って縁深いですよね。
トッド:ちょっとスゴイよね(笑)。この地域は元々いろんな繋がりがあったし、20年前から人も知ってるから、今住んでいる家からも25分くらいで来れるし。色々ちょうどいい条件、って感じがする。
ーーもっと直感的に物事を選んできたのかと思っていました。トッドさんは直感を大事にしながらも、日本や地域の風習を理解し、尊重しながら、慎重に物事を決めてきたんですね。
ーーこれから、仕事としてどんなことをやる予定ですか?
トッド:知り合いと一緒に、会員制の英語のオンラインコースを作ろうと思ってる。10年前からやってみたいと思っていたことで、英語に自信がない日本の親たち、特に若いお母さんに「どうやったらバイリンガルな子どもを育てられるのか」というテーマで教材を作ってる。
ビジネスパートナーは、日本人のお母さんで、彼女は、数年前から子どもたちにインターナショナルスクールに通ってほしいと思っていて。めっちゃ頭のいい人だけど、英語は苦手だった。だけど、家の中の環境を英語に変えることで、今、子どもたちは英語が母国語になったし、彼女の英語もほぼ完璧になっている。
英語を勉強しただけで終わるんじゃなく、使って身につけること。例えば、お風呂の時間のフレーズを教えて、実際にお風呂に入った時にお母さんが英語を話して、それを何回か繰り返したら丸暗記出来るでしょ?
僕はあんまり賢くないけど(笑)、ニーズはあるし、お客さんはきてくれると思っている。
ーー私も含め、お母さん世代は英語への拒絶反応がありますからね(笑)。テストのための英語ではなく、コミュニケーションのための英語学習は魅力的ですね。生徒さんは募集中ですよね?
トッド:はい。興味ある方は、僕のFacebookに連絡ください!
ーーこの山での今後のビジョンはどう描いていますか?
トッド:日本の法律では、農地を買ったら農業をしなければいけないからまずは、梅をする予定にしている。ここの場所なら50本植えられる。50本を一人ではぜったい無理だけど、数人雇ってできるくらいの数かなぁと。梅の木の間でキャンプをやってみたい。
農業を副業みたいにできれば。メインはキャンプ場や、体験ができるようにしたい。もし家の改修ができたら、僕が住むのもいいけど、Airbnbとかで貸してみてもいいなぁと思ってる。でも、不安もめっちゃある。お金も要るし。せなあかんことがいっぱいあるから(笑)。
ーー広すぎますもんね(笑)。トッドさんがそれを成し遂げるには、まだまだ多くのサポートが必要だと感じます。これから、どんな人と出会いたいですか?力を貸してほしいこととか。
トッド:今、一人で悩んでいて。前に落ち込んでいた時期もあったから、一緒に悩んでくれる人とか、人に繋いでくれる人に会えたらいいな。って思う。僕は人に会うことや繋がりを作るとか、ネットワーキングが大好き。補助金に詳しい人とか、申請書を書ける人とか、こういうチャンスがあるよ、とか……そういう情報ももらいたいなぁ。
ーー可能性が無限大ですね!これからの変化が楽しみです。今日はありがとうございました。
トッド:ありがとう。
PROFILE
Todd Van Horne(トッド・バンホーン)
和歌山県上富田町在住。オレゴン州に住んでいた1998年、友人に会いに日本を訪れたことをきっかけに日本に移住。英語教師、田辺市で発芽玄米専門の飲食店経営などを経て、現在は購入した山で事業計画中。1児のパパ。
出身地:アメリカ カリフォルニア州
連絡先:@tvanhorne (Facebook) / @campkumano (Instagram)
インタビューを終えて……
トッドさんにお会いしてすぐ「森が似合うステキな人だな〜」という印象を受けました。自然の中での佇まいや、無口なわけではないけど静かに丁寧に話す姿。土地のヒストリーを話すトッドさんは、本当に生き生きとしていて、きっとこの山に活かされているのだろうな、と感じました。
私は、インタビューさせてもらう立場にも関わらず、豊かな時間を提供してもらいました。
目の前に広がるのは、日本の原風景。今やそれが特別でゼイタクな景色に変わったんだな、と感じつつ、昔の暮らしに戻ることが、より人間らしく豊かな生活なのかもしれない……そんなことを考える良いきっかけになりました。
トッドさんの土地で過ごして、この場所が「色んな人を癒やす」「楽しいことが循環する」そんな場所になる、と確信しました。でも、あまり人に知られない秘密基地にしておきたい……なんて思ったり(笑)。
この山、そしてトッドさんが、これからどんな変化をするのか。今から楽しみでしかありません!
(さとあや)